第26回選考経過

第26回を迎える福島正実記念SF童話賞に、今年度は合計194編の応募があった。前回に比べると50編以上もの増加ということになる。創作集団プロミネンスと岩崎書店が同じく懸賞公募しているジュニア冒険小説大賞の応募数も今年は飛躍的に増加した。
今年の特徴は、応募者数の増加のほかには、SF仕立ての作品が多いことだった。何年か周期でめぐってくる「SF豊作年」に当たったのだろうか。また、SFは景気が悪くなったり、戦争が間近になったりすると多く読まれるという俗説もあるそうだが、それも当てはまるのだろうか。

第一次選考を通過した作品は、以下の17作品である。
〜ひみつものがたり〜『健太の冒険』 遠山裕子
ミミズ・掃除屋・ダンゴムシ さえぐさふゆめ
下校のチャイムがひびいたら 奥深 行
きもだめし☆攻略作戦 野泉マヤ
妖精ピリリとの三日間 西 美音
担任ロボッ太 夏神うをすけ
五年一組、バレンタインは七夕やります 三宅久美
トモダチは死神見習い 佐野由美子
ティントーヌウガーミ 藤 あさや
天の川から舞い降りてきた七夕竜 小林志鳳
台風のタマゴ むなかたわたる
遺伝子組みかえ引き受けます 横田明子
ルイシャンマイシャン大騒動 三野誠子
とうめい人間のクスリ!? おおのさとみ
ワーズワースの詩 天城れい
お願い、カメ様 上木千尋
UFOを目撃しよう そして宇宙人を見つけよう 文月奈津美

二次選考を通過して、最終選考に残ったのは、以下の6作品である。

〜ひみつものがたり〜『健太の冒険』 遠山裕子
下校のチャイムがひびいたら 奥深 行
きもだめし☆攻略作戦 野泉マヤ
妖精ピリリとの三日間 西 美音
担任ロボッ太 夏神うをすけ
ルイシャンマイシャン大騒動 三野誠子

2月6日、岩崎書店で最終選考会が開かれ、この6作の評価をめぐって熱い討議がおこなわれた。

〜ひみつものがたり〜『健太の冒険』 遠山裕子  健太のおばさんは作家だが、スランプに陥り、新しいアイデアを求めて、甥っ子の健太を「本」の世界へ送り出す。そこで健太はいやいや冒険の旅に出る。ところがこの物語は、おばさんの作家の視点で描かれており、主人公の健太はすべてにおいて受動的だ。子どもが手にする物語で「冒険」というタイトルをつけるならば、主人公である少年の主体性、人間的成長は絶対不可欠であり、何もしないで物語が解決してしまうのはいただけない。また「どきどき・わくわく」感がないことも致命的だ。物語がはじまってから肝心の冒険に入るまでが、無駄にだらだらと長い。50枚という制限があるのだから、主人公が最初から動いて、枚数を精一杯有効に使ってほしい。

下校のチャイムがひびいたら 奥深 行 放課後の学校で、また夜間の学校で3人の少年が顔を合わせる出だしが、怪しいできごとを予感させて読者を物語に引きこむ。ストーリーは宮沢賢治の「注文の多い料理店」をパロディ化した面がある。昆虫型宇宙人が皮をぬいで出てくるあたりはおもしろい。ただ状況がイマイチはっきりしない。SFなら空想科学的理くつがほしい。ホラーにするなら荒唐無稽を前面に押し出し、C級の怪獣映画なみに羽目をはずしたほうがよい。中途半端が一番いけない。「夜の学校」という場を生かして、もっとホラーっぽくした方が読後感もよくなるだろう。

きもだめし☆攻略作戦 野泉マヤ  こわがりやの主人公が、一人で暗い道を歩く練習をしていて、高校生と知り合う。そのお兄さんが「きもだめし」の強力な助っ人になってくれて……という物語の運びがうまい。いじめっ子がいたり、怪談っぽいところがあったり、そのバランスがよく、なかなかのテクニシャンだ。好感度も高い。一読後泣けるムードもある。SFとしては「幽霊は電磁波の一種」という幽霊観が出てくるが、幽霊探知機や除霊機はこけおどしで、うまく使いこなせていないようだ。勉強してほしい。

妖精ピリリとの三日間 西 美音 これはSFのようでもあるし、ファンタジーのようでもあるが、どちらかといえばファンタジーの色合いが強い作品だ。SFファンタジーとしておけばどちらの顔も立つ。この作品で注目したいのはこれまでSF童話で、あまりとり上げなかったテーマに挑戦しているところだ。妖精ピリリは、主人公の少女には大型のセミにしか見えないが、母や町の人間たちには、背中に羽の生えた15センチくらいの美しい妖精に見える。セミなのか妖精なのか? 写真にとってみると、丸いぼんやりした光しかうつらない。このあたりにSFファンタジーとしてのリアリティがある。そしてこの作家の将来性を示している。

担任ロボッ太 文部科学省から送られてきた担任の先生はなんとロボットだった。クラスの生とたちはみんな破天荒なロボット教師に振り回されるが、なんとなく憎めない。そういう設定はよくできているが、発想、言葉づかい、ネーミングなどが全体的にやや古い感じがする。内容もドタバタの域を出ていないが、わかりやすく、ロボットもの独特なおもしろさがある。ただ今のロボットはもっと進化しているはずだ。この物語を生かすなら、古いDVDを見ていて、その中に入ってしまうことか、40年前の文部省で作られたということにしたらどうだろうか。もう一つ注文をつけたい。登場人物たちに個性がないことが気になる。勢いだけで読ませるのは限度がある。とにかくSF童話にとってロボットものは、もっと充実させたい分野だ。新しいロボットSF童話の世界を作り上げてほしい。

ルイシャンマイシャン大騒動 三野誠子  テレビの上で飼う「ルイシャンマイシャン」という不思議なペットが大流行する物語だ。かつて現実に流行した「ケセランパサラン」のパロディだろうか? 「ルイシャン〜」は宇宙人が地球人を支配するために仕掛けたものだが、このオチが意外にあっさり明かされてしまう。宇宙人の地球侵略SFでナンセンスものといえば、第12回の大賞「ボンベ星人がやってきた」(竹内宏通)がなかなかの秀作だ。宇宙人のおとぼけぶりとその風刺性を参考にしてほしい。

議論のあとに、受賞作品候補として「きもだめし☆攻略作戦」と「妖精ピリリとの三日間」の2作品に絞って討議が続けられた。「きもだめしー」には、読みやすさ、安定感、優しさと暖かさがある。仕掛けに疑問が残る箇所があるので、そこさえクリアされればぜひ残したい。「妖精ピリリ」については、ユニークさ、SFらしさ、未開のジャンルに目をつけて書いていく力を評価したいということになり、2つの作品を書いた作者それぞれの将来性に賭ける意味で、2作品同時大賞受賞ということになった。

受賞作は次のとおりである。
大賞 「きもだめし☆攻略作戦」野泉マヤ
大賞 「妖精ピリリとの三日間」西 美音

2009年3月 福島正実記念SF童話賞選考委員会


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