第34回選考経過、選評

「福島正実記念SF童話賞」は、今回で34回目を迎えた。隔年開催になってから初めてであり、応募者の増減が懸念されていた。しかし蓋を開けてみれば、応募総数は222篇で特に目に見えての変動は見えず、例年並みといえる。

応募者は、50代がいちばん多く、次に40代、60代とつづく。応募者平均年齢は、50.1歳。今年は10代が4名応募してくれたが、10代から30代の総数と、60代から80代のそれでは後者のほうが断然多い。シルバー世代からの応募ももちろんありがたいが、子どもに比較的近い年齢で、若い熱量で書き上げる「読んだこともないお話」というのがぜひ読みたい、というのは主催者側の切なる願いである。

応募作品のなかには、相変わらずグレード(対象年齢)や内容が福島賞と合致していないものもあったが、長く続いて社会的に認知されてきたのか、的を外していない作品が昔に比べて増えた、という意見も出た。ただ、とても魅力的な内容なのに突然尻切れトンボのように終わってしまったりするものもあり、規定枚数のなかでまとめるという、守らなくてはならない物語の基本ルールは、やはり理解していただきたい。

昨今のテクノロジーの進化で、昔のSFで描かれていたことが現実になっているものもあり、昔ながらのSFの一部はもはやSFではなくなってしまった。どのようにSFを描くかは今後の課題である。SFならではの夢、冒険、わくわくするようなお話を期待してやまない。

さて、第一次選考は例年通り、すべての作品を対象にして行われ、次の16作品が通過した。

「ベストフレンド」 いなもと きみ
「どうしよう、ママがウシになっちゃった!」 南田幹太
「呪われ調査隊『呪い解きます!』」 中村くじら子
「ハイロウドーナッツ ~想いをつなぐ天使の○(わ)~」 ときわ せつな
「ハンブン、オニ」 わなたべ ちさ
「『おやつどう』のふしぎなできごと」 竹内佐永子
「かいだんかいぎ」 日下れん
「ドアノブとドア」 空森日到
「おれからもうひとりのぼくへ」 相川郁恵
「ちっちゃいばあちゃん」 おのえ もとみ
「夜の遊園地」 高本葵葉
「タキ雑貨店の不思議なガラクタたち」 山田アオイ
「チビUFO 地球襲来」 西村洋子
「少年UMAクラブ」 すぎやま見咲
「銀河は きょうも かがやいて」 生方章子
「とんがりぼう」 本野しおり

この16作品を対象に第二次選考を行った。よくあるパターンの作品だったり、つかみはよくてもラストが尻すぼみだったり、アイデアはよくても成功していなかったりする惜しい作品が多かった。そのなかでも「これは」と何かしら光るものがある7作品が最終選考に残った。

「どうしよう、ママがウシになっちゃった!」 南田幹太
「呪われ調査隊『呪い解きます!』」 中村くじら子
「おれからもうひとりのぼくへ」 相川郁恵
「夜の遊園地」 高本葵葉
「タキ雑貨店の不思議なガラクタたち」 山田アオイ
「少年UMAクラブ」 すぎやま見咲
「銀河は きょうも かがやいて」 生方章子

「どうしよう、ママがウシになっちゃった!」 テンポのいい運び方ですらすら読めるが、全体的に昭和な雰囲気。昔から言われる「食後横になると牛に」というアイデアを基にしたストーリーはゆるく、バカバカしい展開もなぜか好感が持てて、中学年の子どもが楽しく読んでいけそうだという意見もあった。細かな表現などは要検討だが、うまく書けているからこそそれが目立つともいえる。親の動物化が映画『千と千尋の神隠し』を彷彿させたり、主人公の活躍が今ひとつ弱く、結局大人たちが解決している結末が残念。

「呪われ調査隊『呪い解きます!』」植物怪談と呼びたくなるアイデアはめずらしく、北海道の書き手ならではのハルニレの存在感で印象に残る。一方、森のような校庭で一般的な運動会などはできるのか、という素朴な疑問も。この校庭の設定をもっと活かしたら、ほかの地域の人には書けないものになっただろう。一人称と三人称が混在する明らかなミスや、作者本人しかわからないような理屈のようなものがあった。特に重要な設定のはずの「宇宙ユー」がイメージしにくく、首をかしげつつ読み終わることになってしまうのが惜しい。

「おれからもうひとりのぼくへ」 パラレルワールドものとして、初の成功例になった。挑戦した応募作品はこれまでにもあったが、あちらの世界を書けてないことが多かった。この作品は、こちら・あちらの相互関係がわかりやすい。むずかしい理屈がなくて自然に読め、成長物語にもなっている。作中にサッカー選手の実名が登場する。誰が好きかをキャラ表現につなげることはできるが、その人物を知らない読者には通じない。本は長く残るものだから、未来の読者にも意味不明になる。また、登場人物のひとりの、いちいち語尾を伸ばすしゃべり方も気になった。ふつうに乱暴な口調でもいいのではないか。ラストは若干優等生的で、とってつけたような感じもした。児童書だからこその結びなのだろうか。以上のような部分的な問題はあるが、全体としてはまとまっていた。

「夜の遊園地」 これもパラレルワールドもの。同じ世界の未来が見えるという内容に、好感が持てる。地味だが独特な世界観。いい雰囲気で、絵になる場面が多い。タイトルもそそられる。短く淡々とした語り口に引き込まれる。心理描写が巧みで、おとなしいぼくの気持ちがよく表せている。本が好きな、インドア派の子どもたちが共感して読めるのではないか。主人公が夢を見つける結びもいい。しかし、明らかに福島賞が求める対象年齢ではないのが残念。主人公が中学年なら作品が自動的に「中学年向け」になるわけではない。

「タキ雑貨店の不思議なガラクタたち」 ある日、見たこともないお店ができて……という「不思議なお店」系の作品。この系統も毎回応募されてくる。雰囲気はよいし、ゴミ屋敷やジェンダーなど現代的な問題を扱っていて興味深いが、各エピソードが次々消費されていく印象がある。また肝心なところが抽象的で、作者の道徳観が強いのも気になる。子どもたちに伝わるだろうか。片耳のない子犬(生き物)をこの店で売るガラクタとしていいのかも疑問だ。「タキ」が何であるかを感じさせる伏線はあってもよかったかもしれない。

「少年UMAクラブ」 意図したものか偶然か、アイデア自体が「ポケモンGO」を思いださせるものになっており、それに気づいた時点で作品に入り込めなかったという声が多かった。また、UMAを扱うなら、もっとちゃんとしたUMAにしてほしい。文章は読みやすく、冒頭の入り方や友だちとの関係性、一度別れた友だちとまた出会うというドラマ性は評価できるのだが、肝心のUMA探しのマイナスが大きい。教授が作ったUMAキャッチャーをはじめ、作中に描かれる事象は全国的なものなのかなど、背景が十分に語られておらず、読者は不完全燃焼で終わる。

「銀河は きょうも かがやいて」 作中で死に至る事故が語られる。特に児童書で子どもの死というのは重い。また死者が書き残したという形で事情を知らせる構成のため、長々と説明が続くことになる。環境破壊、戦争などを持ちだすのも、やや単純ではないだろうか。パターンでいえば、「宇宙人が地球人を観察している」系。パターンがあるのは当然だが、その類型を使って何をするのかが腕の見せ所だ。ぬいぐるみ風の発信機でこの町の一家を観察しただけで地球を滅ぼすか否かを判断するのか、という根本的な疑問も残る。結末も妙に道徳的で、おとなが考えたおとなのメッセージだなと思わせる。

以上、最終選考会で各作品についての討議を重ねた。最終的に満場一致で「おれからもうひとりのぼくへ」が大賞に決まった。福島賞らしいボリューム感で、パラレルワールドをうまく表現していることが評価された。佳作については、これもパラレルワールドものの「夜の遊園地」に決まった。グレード違いではあるが、筆力や雰囲気は高評価だった。次は、対象年齢に照準をあわせて書いていただきたい。

大賞 「おれからもうひとりのぼくへ」 相川 郁恵
佳作 「夜の遊園地」 高本 葵葉

2018年3月
福島正実記念SF童話賞選考委員会



選考委員の選評

選評 石崎洋司

2年ぶりの開催で、どんな変化があるのか楽しみにしていたが、きちんと物語に仕立てあげることに意識がむいている作品が多くなっていたのは、うれしい驚きだった。

が、お話の結構を整えすぎれば、いい意味での破綻=パンチ力を欠くということにもなる。実際、すなおに読める作品が多い中で、ぐいぐいと引き込まれる作品や、「これ!」と推したくなるような作品には、出会えなかった。大賞作品にはほかの選考委員が触れてくれるはずなので、大賞を争ったいくつかの作品について、個人的に感じた問題点を挙げてみたい。

「どうしよう、ママがウシになっちゃった!」
文章を書き慣れているようで、安心して読める作品だった。が、それだけに、現代の子どもたちに読ませることには慣れていないことも露呈してしまった観がある。はちゃめちゃな展開のお話なのだから、ママがウシになってしまった「背景」を「まじめに」設定するより、徹頭徹尾、はちゃめちゃなお話で通したほうがよかったのではないか。

「呪われ調査隊『呪い解きます!』」
魅力的なタイトルに期待したが、呪いの木が宇宙人(?)だったというオチは残念だった。そもそも「地球を監視する宇宙人」という設定はとても難しい。監視は世界中で行われているのではないのか、「ここ」だけならそれはなぜなのか、など、説明的な要素が多くなるからだ。身近な不思議を身近なSFに組み込む、そこがSF童話の苦労のしがいではないかと思うのだが。

「夜の遊園地」
最終選考に残ったなかで、わたしが最も好きな作品で、ほかの選考委員の評価も非常に高かった。が、いかんせん、この童話賞の対象読者からは外れすぎている。児童書は、読者の年齢設定を決めて出版される世界である。幼年童話に大人が感動することはごくふつうにあるが、それも「幼年向き」に書かれているからこそ生まれる感動である。そこが欠けているこの作品に大賞を授けることはできない。

「少年UMAクラブ」
UMAと銘打っているのに、中身がポケモンでは、UMAにもポケモンにも失礼である。UMAのことをもっと調べてから書いて欲しかった。
最後に、最終選考には残らなかったが、「ハイロウドーナツ」にひとこと。創作初心者らしいが、それがかえって「児童書らしさ」にとらわれない文体の獲得につながったようで、とても新鮮に読んだ。個人的には光るものを感じたので、ぜひ今後も書き続けてほしいと思う。

選評 後藤みわこ

2年ぶりの開催になりました。これまでより時間があったぶん、2年分の応募数になるんだろうか、凝った作品が増えるだろうか、逆に、福島賞は忘れられて応募数は減るのかも? などと考えていましたが、拍子抜けするほど「これまでどおり」の選考でした。

一次選考の担当分が特にそうだったのですが、今回いちばん気になったのは「尻切れトンボ感」の強い作品が多かったこと。

実際は、切れていないんです。作者はちゃんとラストシーンまで書いているのです。ただ、「これがオチ?」「この一文で終わりにしていいの?」と、そわそわ、落ち着かない気分になる作品がいくつもありました。

余韻を残そうという意図なのか……読者に問いかけ、委ねようとしたのか……。

こちらが感じ取れなかっただけなのかもしれません。くどくど書けということでも(もちろん)ありません。でも、中学年の読者に対してはもう少し親切に、ホッと息をついて最終ページにしばし留まっていたくなるような「絵になるラストシーン」を用意してあげてもいいんじゃないかと思いました。

とはいえ、結びにもやもやするということは「最後まで読まされてしまう」ということ。引きつけるストーリーの魅力と、ストレスなしの文章力がある作品が増えた、ともいえるのですね。その点はうれしいです。

大賞と佳作の2作品は絵が浮かぶラストで、おかしな言い方ですが、「ちゃんと感動して終われる作品」でした。一次選考以降、そわそわ・もやもやしていたわたしは、作品の感動とは別に、安堵も覚えました。

これまで何度か手にして、「設定も説明もなかなかうまくいかないね、SF童話として書くのはむずかしいんだね」といわれてきた『パラレルワールドもの』で、「初めて成功例に出会えた!」という選考委員ならではの感動もありました。

お祝いとともに感謝もしたい気持ちです。

選評 廣田衣世

たくさんの応募作品を読ませて頂きながら、ここ数年、強く感じていることがあります。それは、かつての「SF」が、現実社会で徐々にリアルになりつつあるなぁという事です。家政婦ロボットや友達ロボット、ボタン一つで掃除も料理も全てお任せのハイテクハウス等の近未来的ストーリーを、十数年前には、もっとずっと先の話のように読ませて頂いていたのが、気付けばあっという間にごくごく身近な世界になってしまいました。AIの登場と発展で、今後ますますSFと現実との距離は近くなっていくのでしょうか。楽しみでもあり、少し恐ろしくもあります。

また、パラレルワールドをテーマにした作品が年々増えている事も感じておりました。そんな中、「おれからもうひとりのぼくへ」が見事大賞となりました。今まで同テーマの応募作品は、主人公が〇〇をした世界、〇〇をしなかった世界など、「主人公が存在している世界」だけをクローズアップして描いたものがほとんどでした。が、今回の受賞作は、主人公が「こっちの世界」へ来たことにより、「あっちの世界」にはじき出されてしまった「もう一人のぼく」の存在をきちんと描き、並行世界のあちら側とこちら側を明確に表現している初めての作品でした。ふたつの世界の相互関係を子どもにも分かりやすく説明してあり、終始3・4年生目線です。主人公が、元の世界とは違う家族や友人の性格にとまどう様子、「あっちの世界に行ったぼくは大丈夫かな」と心配する所など、文句なく共感できます。ただ、友人あつしの独特なしゃべり方は不必要だったのではと思いました。

「夜の遊園地」は、全体的におとなしく地味ではありますが、1シーン1シーンの映像が自然と頭に浮かんでくるような不思議な魅力を持っています。これもまたパラレルワールドものかと思いきや、その焦点は「未来」であり、「未来に建設されるかもしれない遊園地」を舞台としている点に、大いに心を奪われました。主人公の将来の夢が、サッカーコーチから建築家に変わっていくさまも、成長物語としてとても好感が持てました。

「どうしよう、ママがウシになっちゃった!」は、突っ込み所は多々ありますが、中途半端ではなく、最初から最後まで徹底したユーモアが光る楽しい作品でした。

「呪われ調査隊「呪い解きます!」」は、一人称と三人称がごっちゃになっているのが致命的で、作者にしか分からない難解な理屈で強引にラストまでもっていってしまったのが残念でした。

「タキ雑貨店の不思議なガラクタたち」は、それぞれのエピソードが濃厚で、非常に読み応えがありました。反面、あまりに濃厚過ぎて、規定枚数に無理やり縮めて詰め込んでいるという感じです。主人公もかなり大人びていて、とても3年生とは思えません。大人目線の大人の童話かな、という印象でした。

「少年UMAクラブ」は、どうしても某大人気モンスター捕獲ゲームのパロディーという感がいなめませんでした。

「銀河はきょうもかがやいて」は、パターン化された宇宙人ネタで、あまりに既視感がありすぎ、新鮮さに欠けているのが難点でした。

選評 南山 宏

隔年制になってから初めての福島賞だが、今回も最終選考まで残った7作品から、まずまず順当に大賞と佳作を決定できたことは、選者の一人として心から喜びたい。

これはあくまでも長年この児童文学賞に関わってきた私個人の感想だが、従来は第1次選考の段階で接する応募作品には、いわゆる箸にも棒にもかからぬといった類いがけっこう多かったと思う。だが、年々応募者の平均的力量は上がってきているようで、とくに今回はうれしいことに、第1次選考でも第2次選考でも作品を篩にかけるのにかなり苦労させられた。

それでも最終選考まで残った7作品のうち、大賞受賞に値すると私が確信できた作品は「おれからもうひとりのぼくへ」だけだった。タイトルが暗示するように、パラレルワールドのテーマは長い歴史を持つSFの中でも確立された定番テーマのひとつだが、テーマがテーマだけに書きように無限の広がりがあり、子供が読んで理解し共感できる物語に仕立てるのはそれなりに難しい。

しかし、作者はそれを小難しい理屈は一切抜きで、あくまでも小学4年の主人公の目線と具体的な行動だけで描き切っている。物語の出だしと結末で、自転車に乗る「おれとぼく」が出会い頭に衝突し、同じ現象の「正と反」になってパラレルワールドの世界が入れ替わる、という構成の工夫も見事に効いている。

佳作「夜の遊園地」は、拾ったチケットをちぎったとたん眼前に夜のひと気のない遊園地が出現するが、それは実現しなかった建設計画――観覧車のある遊園地の言うなれば「ゴースト」だった、という切ないファンタジー奇譚。成人読者も感動できる物語だが、それだけに福島賞の対象年齢読者よりややグレードが高すぎ、それもあって佳作にとどまる結果となった。

そのほかの最終選考5作品は、いずれも発想・物語展開・文章力のいずれか、またはすべてが入賞2作品より劣っていて、残念ながら選外とせざるをえなかった。

 

選評 島岡理恵子(岩崎書店)

今年から隔年開催になったので、どうなるかと心配したが、2年ぶりだから倍増したということもなく、激減したわけでもなかった。概ね例年並みである。
2次選考まで残ったが、最終まで残らなかった作品には、この賞の対象を考えていなかったり、独りよがりであったり、構成に問題があったりとそれぞれに共通するものがあった。

最終選考の中で比較的テンポがよくて面白いと思ったのは「どうしよう、ママがウシになっちゃった!」であるが、親が動物になるというのは「千と千尋の神隠し」を連想してしまった。またラストに物足りなさが残った。

「少年UMAクラブ」はポケモンGO を連想してしまう。次々とUMAが出すぎるとも思った。転校の多い子供の心境、友人との再会などは、変わらぬテーマだと思うが、UMAをテーマにするならもう一工夫して欲しかった。

「おれからもうひとりのぼくへ」はパラレルワードではあるものの、それぞれの世界をきちんと描き、安定している印象はあった。オーソドックスな話だけに、もう少しひねりもほしかった。

50枚という限られた枚数の中に絵もふんだんに入れる構成ならば、当然絵でも楽しめるものでないと難しい。二人で延々と会話しているシーンを絵にしてもつまらない。物語がテンポよく展開する構成。導入の魅力、結末の意外性など、要素はいくつもあるし、選考で話題になるのはグレードやSF賞の意味を把握しているか、ラストに向かって中途半端に収束してないか、説明でおわっていないかなどをみているので、これから応募される方は、そのあたりも十分に考慮して、書いていただきたい。

次のページを読みたくなるようなワクワクする作品を期待している。


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